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東京ガスライフバルカンドー株式会社(東京都品川区)

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東京ガスライフバルカンドー株式会社
(東京都品川)

【写真】櫻井さん、古勝さん、大泉さん、廣瀬さん、岡田さん 東京ガスライフバルカンドー株式会社は、2008年(平成20年)設立。ガス設備定期保安点検や引越し時のガスの開閉栓、ガス機器の修理・設置などを行っている。
従業員数は441名(2024年4月現在)。
今回は、代表取締役社長の大泉正弘さん、総務・人事部長の櫻井純太さん、総務グループマネジャーの廣瀬篤志さん、総務グループの古勝貴子さん、外部専門家(産業カウンセラー、キャリア・カウンセラー:以下カウンセラーと表示)の岡田敏雄さんからお話を伺った。

ストレスチェックにおける高ストレス者比率を改善するために、人事部門と産業医が高ストレス部署にアプローチしたり、カウンセラーに支援をお願いしたり、取り組みを進めている。

まず、ストレスチェックの実施状況について、お話を伺った。

職場環境改善をより効果的に行うために質問項目の見直しを行いました 「ストレスチェックは2016年10月から毎年実施しています。出向者、派遣社員も含めて全社員が対象です。実施については、社内イントラネットのトップページや全員配信通知で案内しており、オンラインで回答できるようになっています。受検率は毎年97~98%です。」

「質問項目は、2023年までは職業性ストレス簡易調査票(57項目)を使用していましたが、職場環境をより詳細に分析し、現状を把握し職場環境改善に役立てていくために、2024年からは新職業性ストレス簡易調査票(80項目)に変更しました。これから効果検証をする予定です。」

ストレスチェックの結果は回答後すぐに表示され、産業医の面接指導も申し込めるようになっています 「ストレスチェックへの回答が終了すると、その場で結果が表示されます。結果は、“晴れ”、“曇り”、“雨”など、天気のイラストでわかりやすく表示されるようになっています。また、“雨”、つまり高ストレス者の方には、産業医による面接指導の案内メッセージが表示され、希望する場合はそのままオンライン上で申し込みができるようになっています。」

集団分析結果に基づいて総合健康リスクが高い部署には人事部門と産業医がアプローチし、改善に向けて取り組んでいます 「当社の高ストレス者の割合は、コロナ禍においては2割程度と高い状態で推移していました。こうした状況を少しでも改善していくため、総合健康リスクが高い部署には、人事部門と産業医がストレス原因について確認したり、上長と面談をしたりして、改善方法について相談と検討をしています。例えば、設計業務を担っている部署などは、繁忙期になるとお客様をお待たせすることができないためどうしても残業が多くなってしまい、高ストレスになりやすい状況があることが分かりました。そこで、業務の仕組みや流れを変えて残業を減らしていけるよう取組みを進めています。」

社長自ら社員のワークモチベーション向上を目指し人事部門等と連携し、職場環境改善、人間関係向上に取り組んでいます 「また、岡田氏には2019年まで当社の外部監査役をお願いしていたのですが、普段はカウンセラーとして活躍しておられることも認識しておりました。そこで、監査役退任後の2020年以降は当社のメンタルヘルスやワークモチベーションの向上にご協力頂きたいとお願いし、大泉社長以下、総務・人事部長、総務グループマネジャー、担当者と岡田氏を加えたチームとして社員のメンタルヘルス向上に向けた課題解決に向け活動をしてまいりました。その結果、まず実施すべき取組みとして、社員間のコミュニケーション不足が原因でワークモチベーションが低下しているのではないか、それを改善しない限り高ストレス者も減らないのではないか、という仮説を立てました。そこで、2020年度を初年度として社員研修やカウンセリングを実施していくことになりました。」

アンケートやヒアリングなどを通じて現場の実態を把握した上で、研修やキャリアカウンセリングなどを実施している。

次に、その他の職場のメンタルヘルス対策の具体的な取り組みについてお話を伺った。

現場の実態を踏まえて研修テーマを毎年設定し、実践的な研修内容になるよう工夫しています 「2020年以降、社員研修を実施しています。研修のテーマは、ストレスチェックやエンゲージメントサーベイ、モラルサーベイ、社内アンケート、ヒアリングの結果などを踏まえて毎年決めていて、2020年はコミュニケーション、2021年はストレス対処法、2022年と2023年はコンプライアンス、2024年はコーチングと若手社員向けの研修を実施しました。」

「ヒアリングは、ストレスチェック結果から課題がうかがえたグループの上長に対して、実施しています。“何が大切なのか”ということを、ヒアリングを通して見極めていくと、最初の頃は、社員間のコミュニケーションだったのですが、次は、ストレスが溜まっていることにより、現場でハラスメントが起きていることがわかりました。ハラスメントに関するアンケートを実施したところ、“ハラスメントを今受けている”、“過去に受けたことがある”、“噂で聞いたことがある”という人の割合が、現在は減少していますが、当時は相当数の社員がハラスメントの影響を受けているという結果でした。このように、毎年のストレスチェック結果をもとに、その都度ヒアリングやアンケート結果などを踏まえて、社員に必要と思われる内容をテーマに研修を行っています。」

「研修内容も工夫しています。まず、興味を持ってもらえるようなタイトルにしています。また、当社で実際に起きている事象内容を加工した上で、具体的事例を提示しながら意見交換をするなど、自分に身近なテーマとして考えてもらえるようにしています。」

「2024年の若手社員向け研修では、定年まで当社で働くことをイメージしたときに、自分のキャリアをどのように積んでいったらいいかわからないという意見があったので、なるべく少人数(5~6人)を基本に若手社員同士で意見交換できるようにしました。自分と同じ考えの同期社員がいることに気づいたことで、共感しモチベーションが上がる人も多くいました。」

「5年間、研修を継続的に実施してきて、社内に落ち着きが少しずつ出てきたように感じています。ストレスチェックやエンゲージメントサーベイ、モラルサーベイの結果も少しずつ改善してきています。」

社員が安心してキャリアカウンセリングを受けられる環境を用意しています 「また、キャリアカウンセリングも実施しています。カウンセラーと1対1で面談して、仕事や生活のこと、人間関係のことなど、プライベートも含めて相談することができます。コロナ禍で社内のコミュニケーションが不足していた時は、20名以上の方が利用していたこともあります。現在も4,5名の方が継続的に利用しています。」

「コロナ禍の時期には『カウンセラー便り』を定期的に発行していました。 “「キャリアカウンセリング」って何?”、“どうしたら悩みって無くなるの?”など様々なテーマでメッセージを発信したのですが、その中でもキャリアカウンセリングの申込み方法について案内し、相談しやすい環境を提供してきました。」

「当社はお客様とやりとりする機会が多い業種です。極端な例でいえば、コロナ禍の時期に『お客様のご自宅(現場)を訪問したときに、除菌スプレーをかけられた』など、ストレスを感じる機会もあります。そうしたことをカウンセラー等の専門家に話せる環境を用意することは大事だと考えています。東京ガスのグループ会社の中で、キャリアカウンセリングを無料で何度でも受けられるのは当社だけです。社員の皆さんに関心を持っていること、会社としてできる限りの対応をしていく姿勢を示すことが重要だと考えています。」

「心の健康づくり計画」を策定し、取り組みを進めています 「2023年には“心の健康づくり計画”を策定しました。管理職が集まる会議において、心の健康づくり計画を策定したいという話をして、各事業場の安全衛生委員会で意見を聞いて検討した上で策定しました。取り組んでいく内容としては、“こころの耳”を見て、実施できるセルフチェックの利用勧奨や、“こころの耳”で公開されているセルフケアに関する動画試聴の推奨、社内研修の実施などとしており、現在実施を進めています。」

年間休日の見直し、時差勤務の導入、経営方針の定期的な発信、処遇改善など、様々な面から働きやすさの向上に向けて取り組みを進めている。

最後に、ハード面も含めた取組みについてお話を伺った。

「社員からの生の声を聞いて、できることから取り組みを進めています 「当社は、全体で400名程度の会社ですので、社員の生の声を吸い上げて反映することができる規模だと思っています。社員の意見をいろいろな機会で聞いたところ、“経営方針がわからない”、“人事異動が多い”、“業績評価がわかりにくい”、“残業が多い”など、様々な意見が寄せられました。」

「そこで、まず、2025年度より年間休日を119日から120日に増やす予定です。テレワーク制度の整備、時差勤務の導入、有給休暇の取得促進など、働きやすさの向上に取り組んできました。また、2か月に1回、社内イントラネットを通じて経営方針を発信するようにもしました。処遇改善にも取り組み、5年間連続でベースアップを実施しました。」

「エンゲージメントサーベイでは、会社レベル・部署レベル・個人レベルで良好点や課題点などをピックアップして分析を行っていますが、こうした取り組みを積極的に進めてきた結果、“経営への信頼”の結果が良くなりました。また、“社員満足度”も少しずつ上がってきました。」

「各種サーベイなどで上がってくる声の中には同じような意見が含まれていることも多いです。できないことももちろんありますが、ハード面で改善できることはできるだけ改善するようにしています。ただ、他の業界や業種に比べるとまだまだ改善の余地があるところも少なくないので、日々ブラッシュアップを続けていく必要があると考えています。」

「少しずつ改善を実感できるようになってきました 「当社は、複数の会社が集まりできた会社ですので、元々は方向性も社風もバラバラのところからのスタートでした。そのため、ストレスチェックも各種サーベイも結果が良くなく、なかなか改善されない状況が続いていました。2020年から研修など様々な取組みをはじめて、少しずつ働きやすい職場づくりが浸透してきたと感じています。今も高ストレス者は多い状態が続いていますので、高ストレス者の割合が10%まで減らせられるよう引き続き改善を続けていきたいと思っています。なお継続的な取り組みの結果、2024年度の高ストレス者比率は2020年度の2割程度から大きく低減しています。」

【取材協力】東京ガスライフバルカンドー株式会社
(2025年3月掲載)